エルンスト・スタヴロ・ブロフェルド(Ernst Stavro Blofeld)はイアン・フレミング原作の『ジェームズ・ボンド』シリーズに登場する悪役(スーパーヴィラン)。世界征服を狙う悪の天才であり、世界規模の犯罪組織「スペクター」(SPECTRE, SPecial Executive for Counter-intelligence, Terrorism, Revenge and Extortion、「対敵情報、テロ、復讐、強要のための特別機関」)の首領をつとめており、イギリス秘密情報部の諜報員ジェームズ・ボンド の宿敵でもある。
ブロフェルドはスキンヘッドの姿がよく知られているが、彼はしばしば変装したり整形手術により容姿を変えたりしてボンドの前に現れる。また映画版では常に白いペルシャ猫を膝の上に抱きかかえながら登場し、初期(『サンダーボール作戦』まで)は猫を撫でて毛づくろいをする手だけしか観客の前に姿を見せなかった。白猫を撫でるブロフェルドは様々な映画などでパロディにされている(『オースティン・パワーズ』シリーズの悪役ドクター・イーブルなど)。
経歴[]
フレミングは1961年に刊行した小説『サンダーボール作戦』でブロフェルドの前半生を詳しく描いているが、映画では一切過去が明らかにされたことはない。
小説によれば[1]、ブロフェルドは1908年5月28日[2]にポーランド人の父とギリシャ人の母のもとにグディニャで生まれた[3]。第一次世界大戦後ポーランドの独立によりポーランド国民となったブロフェルドはワルシャワ大学に進み経済学と政治史を学び、ワルシャワ工科大学で工学とラジオニクスを学んだ。その後ポーランド政府の郵便電信省に入ったが、この地位を利用しワルシャワ証券取引所で株の売買を行い財を成した。
第二次世界大戦を予見したブロフェルドは、1939年のポーランド侵攻の直前にポーランド政府の機密電報の写しを作ってナチス党政権下のドイツに売り、彼が存在したという記録や経歴の全てを抹消してトルコへ逃げた。
トルコのラジオ局で働きながら情報機関を立ち上げ、スパイを使い集めたさまざまな情報を連合国と枢軸国の両方に売った。エルヴィン・ロンメルが敗れた後は連合軍を支えることに専念し、連合国各国から多くの勲章を受けて終戦を迎えた。その後南アメリカに渡り極秘裏に「スペクター」を設立した、という設定である。
登場[]
小説[]
イアン・フレミングの小説ではブロフェルドは三度登場した。最初は1961年の長編第8作目『サンダーボール作戦』でスペクターの首領として現れたが彼の役割は比較的小さなものだった。彼の陰謀を実行してボンドと戦ったのは部下のエミリオ・ラルゴである。
ブロフェルドは次の小説『わたしを愛したスパイ』には出ないが、この物語はボンドが北米でブロフェルドを調査中に起こっている。『女王陛下の007』では、ボンドはブロフェルドが身分を偽りスイスにいることを掴み、英国の農業を崩壊させるという陰謀を砕く。小説の最後ではブロフェルドはボンドの妻となったヒロインのトレーシーを殺して復讐を果たす。
続く『007は二度死ぬ』ではブロフェルドは変名で日本に潜伏しているが偶然ボンドに見つかる。私有地で様々な仕掛けを用意し、自殺志願者を招き入れるという、死神のような役目をしている(しかし、ボンドに言わせるとその陰謀のスケールは小さくなっている)。小説の最後でボンドは妻の敵でもあるブロフェルドを追いつめて殺し、これ以後ブロフェルドは登場しない。
映画[]
ブロフェルドは007シリーズの映画6作とシリーズ外の1作でその姿を見せている。
『ドクター・ノオ』、『ロシアより愛をこめて』など、小説にてソヴィエト連邦の秘密機関スメルシが背後にいた陰謀が映画ではスペクターが黒幕となっている作品が多い。ブロフェルドを含めスペクターの幹部たちはナンバーで呼ばれており、失策をした者に対しブロフェルドは容赦なく死の罰を与える。また、自分そっくりの容姿をした替え玉(ペルシャ猫とセット)を複数用意しており、ボンドらを苦しめた。『女王陛下の007』のラストでボンドの妻となったトレーシーを殺すが、次の『ダイアモンドは永遠に』ではついに最期を迎える[4]。ただし『ダイヤモンドは永遠に』ではっきりとは死が描写されておらず、『ユア・アイズ・オンリー』では人物がブロフェルドだとは明言されていないので、ブロフェルドが死んだという確証はない。
- 『007 ロシアより愛をこめて』(1963):アンソニー・ドーソン(声:エリック・ポールマン)
- 『007 サンダーボール作戦』(1965):アンソニー・ドーソン(声:エリック・ポールマン)
- ブロフェルドの最初の登場はシリーズ第二作『ロシアより愛をこめて』で、その次が第四作『サンダーボール作戦』である。両作でブロフェルドはその顔を現さず、最後の出演者クレジットでも俳優の名はクエスチョンマークで伏せられた。彼は背広姿で椅子に座って白いペルシャ猫を撫でており、見えるのはほとんど手と猫だけであったが、これは後に非常に多くの模倣やパロディを生んだ。
- 『007は二度死ぬ』(1967):ドナルド・プレザンス
- 『女王陛下の007』(1969):テリー・サバラス
- 『007 ダイヤモンドは永遠に』(1971):チャールズ・グレイ
- ブロフェルドは上記の三作で準主役級となり、その顔をスクリーンに現わす。『二度死ぬ』では当初チェコ出身のコメディ俳優ヤン・ヴェリフが起用されていたが、イメージ面で温和すぎ、ミスキャストとの指摘が監督、スタッフから続出。数シーン撮影の後降板となり、急遽プレザンスに交代となった。
- 初お目見えのブロフェルドはスキンヘッドでぎょろりとした青い目の中年の男で、詰襟の服にペルシャ猫を抱いているという姿であった。しかし、その後は毎回異なる俳優が演じたため、顔も性格も毎回異なった。『二度死ぬ』で顔の右側についていた長い傷跡は後の二作にはない。『女王陛下の007』では耳たぶが欠損している。『ダイヤモンドは永遠に』では髪は銀髪でふさふさとしている。フレミングの小説では、ブロフェルドはボンドたちに気付かれないよう毎回整形手術などで容姿を変えているとされており、これに沿った変貌振りである。ちなみに、『ダイヤモンドは永遠に』でブロフェルド役を演じたチャールズ・グレイは『007は二度死ぬ』においても端役として出演している。
- 『007 ユア・アイズ・オンリー』(1981):ジョン・ホリス(声:ロバート・リエッティ)
- ブロフェルドと「スペクター」に関する訴訟沙汰によって、その男がブロフェルドであるという確実な描写はない。
- 車椅子に乗ってペルシャ猫を抱いた禿頭の男(顔ははっきりとは見えない)が、ボンドの乗ったヘリコプターを遠隔操作し墜落させようとする。しかし、ボンドは手動操縦に切り替えて男をヘリコプターで車椅子ごとつまみ上げ、工場の煙突へ落下させる。
- 『ネバーセイ・ネバーアゲイン』(1983):マックス・フォン・シドー
- ブロフェルドと「スペクター」は、ケヴィン・マクローリーとショーン・コネリーによって製作された『サンダーボール作戦』リメイク版である本作にも登場した。演じるマックス・フォン・シドーは口ひげ・あごひげに蝶ネクタイの背広という姿であった。
- 『007 スペクター』(2015):クリストフ・ヴァルツ
- 2013年、「スペクター」の権利を持っていたマクローリーが逝去したため、遺族との交渉によって、長年スクリーン上に登場していなかったブロフェルドが復活した。
- 「007 カジノ・ロワイヤル」で時間軸がリセットされたクレイグ=ボンドのシリーズでは、「スペクター」は現代社会に応用された形で登場する。また、悪役のフランツ・オーベルハウザーもブロフェルドとして正式に登場し、007 スカイフォールまでの三作の事件を裏で操っていたとされている。
ゲーム[]
ブロフェルドと「スペクター」は2004年のゲーム化作品『GoldenEye: Rogue Agent』に登場した。スペクターは深海基地と強力な軍隊、進んだ技術を持つ秘密結社で、かつての007の敵役たちが所属している。
影響[]
様々な俳優が演じた様々な「ブロフェルド」は、007の亜流作品やパロディをはじめ、後世の映画やテレビ番組に登場する「悪の首領」像に大きな影響を与えた。「猫を膝に載せた、顔の見えない悪の首領」はもはやこの手の悪の組織の「お約束ごと」(クリシェ)、ストックキャラクターと化した感があり一つ一つ列挙することはできない。
最も印象的なパロディは、『オースティン・パワーズ』シリーズでマイク・マイヤーズが演じた悪の天才ドクター・イーブルであろう。『007は二度死ぬ』のドナルド・プレザンス演じるブロフェルドに影響されたこのキャラクターは、部下たちをナンバーで呼ぶ、顔に傷がある、「ビグルスワース君」と名付けたペルシャ猫を膝に乗せる、『007は二度死ぬ』『ダイヤモンドは永遠に』でブロフェルドが着ていたのと同じネルー・ジャケットを着る、ブロフェルド同様の謎めいた生い立ちを持つなど、007シリーズへの強いこだわりがみられる。
注釈[]
- ↑ ブロフェルドという名は、フレミングの同級生(イギリスのクリケット解説者ヘンリー・ブロフェルドの父親)から取られたと信じられている。しかし実際にはフレミングと同じ会員制クラブにいた作家のジョン・ブロフェルドの父、アーンスト・ブロフェルドから取ったものである。ヘンリーとジョンは遠い親戚に当たる。
- ↑ イアン・フレミングの誕生日と同じ。
- ↑ 1908年当時、グディニャは小さな漁村であり観光客がいくらか来る程度だった。現在のような港湾都市となったのはポーランド独立後の1920年代のことであり、フレミングの説明するようなブロフェルドの生まれ方は不可能か、もしくは信じがたいものである。
- ↑ 製作側としては本来、ブロフェルドを今後も登場させるつもりであったが、ケヴィン・マクローリーとの権利問題(後述)でブロフェルドをこの作品の後、登場させることができなくなってしまった。よって、ブロフェルドの死ははっきりとは描写されていない。『ユア・アイズ・オンリー』においても同様の理由である。
外部リンク[]
|