『007 カジノ・ロワイヤル』(ダブルオーセブン カジノ・ロワイヤル、Casino Royale)は、イアン・フレミングの小説007シリーズ長編第1作、およびその映画化作品。後者については、本記事では主に2006年の映画について説明する。
小説[]
第2次世界大戦中、イギリス海軍情報部に所属していたイアン・フレミングが、戦後その知識と経験を基に創作したスパイ小説。1953年、イギリスのジョナサン・ケープ社より刊行された。イギリス秘密情報部員007、ジェームズ・ボンドの活躍を描いた物語で、売れ行きが好調だったため、以後シリーズ化されるに到った。
ストーリー[]
ソ連・スメルシュのフランスにおける工作員であるル・シッフルは、使い込んだ組織の資金を穴埋めするため、ロワイヤル・レゾーのカジノでバカラによる一攫千金を狙っていた。
イギリス秘密情報部員007、ジェームズ・ボンドは、上司 M からバカラでル・シッフルを負かして破滅させるよう命令される。ボンドは、同僚の女性ヴェスパー・リンド、フランス参謀本部2課のルネ・マティス、CIAのフェリックス・ライターと連携し、一度は窮地に陥りながらも任務達成に成功する。
しかし、その直後にヴェスパーがル・シッフルに拉致され、後を追ったボンドも捕まり、金を返すよう拷問にかけられるが、ル・シッフルはスメルシュの刺客に粛清され、ボンドは命拾いをする。ボンドは自分の仕事に疑問を抱いて辞職を決意し、ヴェスパーとの結婚を考えるが、その結末は悲劇に終わる。
評価[]
この作品は原作シリーズの第1作目であり、ボンドが意外な程に女性に冷たいなど、キャラクターとしてまだ固まっていない部分もある。ハイライトはル・シッフルとのカジノでの対決である。アクションについては、カーアクションシーンが一回あるほかは、後の作品のような派手なものはなく、シビアな暴力描写が取り入れられたハードボイルドタッチの小説となっている。
映像化[]
- 1954年10月21日、アメリカCBSにより単発テレビドラマ化。60分枠『クライマックス!』の1エピソードとして放送。ジェームズ・ボンド作品では初の映像化であった。ジェームズ・ボンドはアメリカ人の設定で、バリー・ネルソンが演じた。他にはピーター・ローレ、リンダ・クリスチャン、マイケル・ペイトらが出演。
- このテレビドラマ版は放送後、数十年間フィルムが散逸していた。発見されてからは1980年代のビデオソフト化、ターナー・ブロードキャスティング・システムでの放送がなされた(ただし、いずれも終盤部分が欠落)。その後、全編が再度ビデオソフトとして収録。
- 1967年、コロムビア映画製作により映画化。ボンド役はデヴィッド・ニーヴン。
詳細は007 カジノ・ロワイヤル (1967年の映画)を参照
- 2006年、MGM、コロムビア映画製作により映画化。ボンド役はダニエル・クレイグ。
詳細は007 カジノ・ロワイヤル#2006年の映画を参照
出版[]
- イアン・フレミング(井上一夫訳)『カジノ・ロワイヤル 秘密情報部〇〇七号』(創元推理文庫)東京創元新社、1963年6月、ISBN 4-488-13801-2
- イアン・フレミング(井上一夫訳)『007/カジノ・ロワイヤル』(新版。創元推理文庫)東京創元新社、2006年6月、ISBN 4-488-13806-3 [1]
- Ian Fleming "Casino Royale" Penguin USA, 2006/10, ISBN 978-0-14-303766-8
2006年の映画[]
2006年のアメリカ、イギリス、ドイツ、チェコ合作のスパイアクション映画。007シリーズ第21作目。
マーティン・キャンベル監督作品で、ジェームズ・ボンド役としてダニエル・クレイグが演じた初の作品であり、シリーズ初の「金髪のボンド」ということでも注目を集めた。ティモシー・ダルトン主演第15作目『007 リビング・デイライツ』以来のイアン・フレミングの小説が原作となっている。しかし、次回作はフレミングの短編「Risico」を原作とする、との報道がイギリスの一部であったが、脚本担当のロバート・ウェイドが否定した。次作「007 慰めの報酬」は本作の続編かつオリジナル脚本による作品となった。『ワールド・イズ・ノット・イナフ』『ダイ・アナザー・デイ』と2作続けてドルビーデジタル・サラウンドEXで音響製作されていたが、本作以降は通常のドルビーデジタルに戻っている。
1967年に公開された第1作目の『カジノ・ロワイヤル』はコロムビア映画作品(現ソニー)。1990年代に入りソニーは007の番外編『ネバーセイ・ネバーアゲイン』のプロデューサーと組んで、本家とは別のソニー版007シリーズを開始しようとしたため、本家のシリーズを配給してきたメトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)、版権元のイオン・プロダクションとの法廷闘争に発展した。しかし、その後にソニーがMGMを買収したことから、シリーズ続編製作の権利を得た。そのため本作内で使用されるパソコンや携帯電話はソニーのブランド製品で統一されている。ボンドや「M」、悪役のル・シッフル、MI6本部が使用するノートパソコン(VAIO)とデスクトップパソコン用液晶ディスプレイ、デジタルカメラ(Cyber-shot)、リゾートホテルの監視用ブルーレイディスクレコーダー、大使館の監視モニターはソニー製、登場する携帯電話は全てソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ製である。また、「M」が見るGoogleの検索画面のスポンサーリンク欄に、BRAVIAが表示されているという念の入れようである。
本作は正確にはリメイクとなるが、1967年の旧作は原作を大幅に逸脱したパロディ作品であった。今回のリメイク作は原作(フレミングによる一連のボンド作品の第1作目)に比較的忠実であるとともに、映画『バットマン ビギンズ』や、のちの『ハンニバル・ライジング』に通じる手法も取り入れ、ジェームズ・ボンドの誕生秘話を描く全く新しいボンド映画となると言われていたが、プロローグ以外の本編に大きく絡むことはなかった(なお、1967年には本家のシリーズである『007は二度死ぬ』も公開されている)。
また、本作はシリーズで初めて中華人民共和国で上映許可が下り、北京でプレミア上映も行われ、全国1000館以上において無修正で上映されることになった。
今作はボンドの若い頃を描いたはずなのに、最新の車や最新機器が出たりしていて時代考証が滅茶苦茶なのではという勘違いがあるが、あくまで本作は今までのボンド映画とは別の、新ボンド映画の1作目である。そのため、ボンドは今作から1968年4月13日生まれに設定され、初期の007の象徴とも言うべきであった冷戦時代にボンドはスパイとして活躍していないなど、今までのボンド作品とは全く別な時系列となっていく(それまでは、コネリー~ムーアのボンドは1920年代生まれで、ダルトン、ブロスナン、クレイグのボンドはそれぞれの俳優が誕生した年がボンドの産まれた年となった)。そのため、上記のジュディ・デンチ演じる「M」も過去の作品とはまったく関わりのない、性格や人間性のまったく異なった新しい「M」となっている。
スタッフ[]
- 監督 - マーティン・キャンベル
- 製作総指揮 - アンソニー・ウェイ、カラム・マクドゥガル
- 製作 - マイケル・G・ウィルソン、バーバラ・ブロッコリ
- 原作 - イアン・フレミング
- 脚本 - ニール・パービス、ロバート・ウェイド、ポール・ハギス
- 音楽 - デヴィッド・アーノルド
- 主題歌 - クリス・コーネル
- 撮影 - フィル・メヒュー
- 編集 - スチュアート・ベアード
- プロダクション・デザイン - ピーター・ラモント
キャスト[]
前作までの配役で変わっていないのは「M」役のジュディ・デンチのみ。「フィリックス・ライター」は配役違いで登場するが、シリーズ常連である「マニーペニー」と「Q」は今作には登場しない。
役名 | 俳優 | 日本語吹き替え | |
---|---|---|---|
DVD版 | TV版 | ||
ジェームズ・ボンド | ダニエル・クレイグ | 小杉十郎太 | 藤真秀 |
ル・シッフル | マッツ・ミケルセン | 中多和宏 | 藤原啓治 |
ヴェスパー・リンド | エヴァ・グリーン | 岡寛恵 | 冬馬由美 |
フィリックス・ライター | ジェフリー・ライト | 辻親八 | 石田圭祐 |
ルネ・マティス | ジャンカルロ・ジャンニーニ | 菅生隆之 | 西村知道 |
アレックス・ディミトリウス | サイモン・アブカリアン | いずみ尚 | 横島亘 |
ソロンジュ・ディミトリオス | カテリーナ・ムリーノ | 北西純子 | 山像かおり |
スティーブン・オバンノ | イザック・ド・バンコレ | 江川央生 | 大友龍三郎 |
ミスター・ホワイト | イェスパー・クリステンセン | 松井範雄 | 大塚芳忠 |
ヴァレンカ | イワナ・ミルセヴィッチ | 東條加那子 | |
モロカ | セバスチャン・フォーカン | ||
M | ジュディ・デンチ | 此島愛子 | 沢田敏子 |
ボンド候補者になった俳優は、Alex O'Lachlan(オーストラリア)、ゴラン・ヴィシュニック、ヘンリー・カヴィル、ユアン・スチュワート、ジュリアン・マクマホン、ダグレイ・スコット、ジェームズ・ピュアフォイ、ヒュー・ジャックマン、クライヴ・オーウェン、ヨアン・グリフィズ、クリスチャン・ベール、エリック・バナ、コリン・ファレル、ジュード・ロウ、オーランド・ブルーム、ベン・アフレックなどなど。三代目ボンドを演じたロジャー・ムーアの長男ジョフリーも有力な候補者の一人だった。当初、ユアン・マクレガーが新ボンド役にオファーされたが、ユアンがタイプキャスト(同じような役柄を繰り返し演じることでイメージが固定されること)を恐れて断ったため、ダニエル・クレイグにオファーが舞い込んだ。前作まで主役を演じたピアース・ブロスナンも意欲を示していたが、作品中のジェームズ・ボンドの年齢設定が若く起用が見送られた。他のキャストではジェシカ・アルバがボンド・ガールに立候補し、ベン・キングスレーやアンジェリーナ・ジョリーが悪役を熱望した。
爆弾魔モロカを演じたセバスチャン・フォーカンは自らの体のみを使って障害物を乗り越える技術パルクールの創始者の一人であり、ダニエル・クレイグも彼からその技術を学んでいる。
製作協力しているヴァージン・アトランティック航空のリチャード・ブランソン会長が、マイアミ国際空港のシーンにカメオ出演している。しかし2007年4月21日、ブリティッシュ・エアウェイズが、同社の機内上映版でブランソン会長の出演部分と、ヴァージン機の尾翼の写ったシーンをカットすると発表し、物議をかもした。
- DVD吹替/翻訳:松崎広幸
- TV版吹替/テレビ朝日 翻訳:前田美由紀 演出:鍛治谷功 (日曜洋画劇場 2009年10月11日放送)
ストーリー[]
裏切り者に対する暗殺の任務を2度成功させ、00(ダブルオー)エージェントに昇格した若きジェームズ・ボンドは、その初めての任務で犯罪組織の資金源の調査とその根絶に乗り出す。生け捕りが必要な爆弾魔を追跡中に射殺し、おまけにアフリカの小国の大使館に侵入、これを爆破するなど、若さゆえの失敗を犯しMにも厳重注意を受けるが、爆弾魔から取り上げた携帯電話の情報をもとに調査を進めるうちに、MI6にも注目されているル・シッフルという謎の男が浮上する。
ル・シッフルは涙腺の異常で血の涙を流し、常に喘息の薬を吸引しており、表向きは会計士および投機投資家であるが、その正体は天才的な数学の才能を活かし、パートナーでテロ組織幹部のミスター・ホワイトとの協力関係のもとに世界中の犯罪組織から資金を集めその運用を請け負う死の商人だった。マイアミ国際空港で新型ジェット旅客機の発表会を狙ったテロを起こし株式市場での大儲けを企むが、ジェームズ・ボンドに直前で阻止され、1億ドル以上の大損をこうむり、各国の犯罪組織から得た投資金を返済できない窮地に陥る。チェスやポーカーの名人でもあるル・シッフルはこの損失を、モンテネグロのカジノのテキサス・ホールデムで勝つことで埋めようとする。これを察知したMI6は、カードゲームに通じたボンドを派遣、ル・シッフルの思惑を阻止しようとする。
一度は賭けに負けた上に毒殺されかけたボンドだが、CIA局員のフェリックス・ライターや、財務省の派遣した調査員ヴェスパー・リンドらの協力を得て、最後の大勝負に勝つ。しかし、その直後にヴェスパーがル・シッフルに拉致され、救出に向かったボンドも捕獲されてしまう。ル・シッフルはボンドから銀行口座の暗号を聞き出そうと拷問にかけるが、そこに到着したミスター・ホワイトに、大損を出したことを理由に殺されてしまう。無事に戻ったボンドは、ヴェスパーと結婚して諜報員稼業から足を洗おうと考える。しかし、そのボンドを待ち受けていた運命は……。
評価[]
本作の興行収入は全世界で5億9420万ドルに達し、シリーズ最高記録を樹立している。しかしインフレ修正した場合サンダーボール作戦が第一位になる。
主題歌[]
元サウンド・ガーデン、オーディオスレイヴのヴォーカリスト、クリス・コーネルが起用され、映画とは別タイトルの"You Know My Name"を歌った。イギリスのチャートでは、最高位7位と健闘したが、アメリカの「ビルボード」誌では、チャート入りを果たしたものの最高位81位だった。同サウンドトラック・アルバムは、チャート入りを果たせなかった。主題歌“You Know My Name”は、本作のサウンドトラック盤には収められていない[2]。これはシリーズ開始以来、初めてのことである[3]。
その他[]
- クエンティン・タランティーノは、『カジノ・ロワイヤル』をリメイクして監督したいと発言していた。ところが、自分が関知しない間に製作が開始された事を知り、「自分が監督する事が前提だったのに、アイディアを無断盗用された」として製作陣を非難するコメントを発した。しかし、前述の通りイオン・プロとMGMは何年も前から版権争いを行っており、念願の映画化をしただけであった。
- 撮影地はカルロヴィ・ヴァリ(チェコの温泉)、プラハ、バハマ、イタリア、イギリス。劇中、モンテネグロと表示されている場所は実際は上記のカルロヴィ・ヴァリで撮影されたものであり、モンテネグロの町並みとあまりにも違うためモンテネグロの観客からは失笑されたと言う。
- 2006年7月30日にカジノ・ロワイヤルの撮影が行われているロンドン郊外のパインウッド撮影所で火災が発生し、撮影に使われているセットなどが灰になってしまった。しかし、撮影はすでに終了し、セットは解体の最中だったので、作品には
- ボンドカーとして新型のアストンマーチンのDBSが使用される。(ただし、ダニエル・クレイグはオートマチック車しか運転できないという事で6速マニュアル・ミッションをオートマチック・ミッションに乗せ換えた物を使用していた。その他、DB5(1964年製)やフォードの新型モンデオも登場する。他にも敵役や脇役のクルマとしてフォード傘下のジャガー・XJやランドローバー社のレンジローバー、起亜自動車のワゴン、フォード・エクスプローラーなどが登場するなど、フォードとのタイアップを生かし、全ての主要シーンに登場する車がフォードとその子会社のブランドに統一されている。
- 劇中でボンドが着用する腕時計は、オメガ「シーマスター ダイバー 300M」と「シーマスター プラネット・オーシャン」である。列車のシーンでヴェスパーがボンドの腕時計を指して「ローレックスの時計?」、「いやオメガだ」というシーンまである。撮影でダニエル・クレイグが実際に使った時計「シーマスター・プラネット・オーシャン」は、2007年4月にジュネーブ市内のホテルで行われたオークションで、15万6千ユーロで落札された。
- ボンドが着用するスーツ・タキシードはイタリアのブリオーニ、シャツは英国のターンブル&アッサー、サングラスはイタリアのアイウェアメーカーのペルソール、靴は英国のジョン・ロブである。
- シャンパンのボランジェとタイアップしており、ボンドは同社のグランダネを注文する。
- 2007年5月23日、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントより『007 カジノ・ロワイヤル』Blu-ray Disc版・DVD版・UMD版が発売された。
- Amazon.co.jpやビックカメラ等では「プレイステーション3」60GB版(店舗により20GB版も対象)を購入すると、数量限定で『007 カジノ・ロワイヤル』Blu-ray Disc版が贈呈される(2007年5月23日現在)。
- マイアミ国際空港のシーンで登場する新型機スカイフリートS570は、実際はブリティッシュ・エアウェイズの旅客機だったボーイング747-200(G-BDXJ)を改造したものである。現在はイギリスのサリー州にあるTopGearテストトラックに駐機されている。
- 香水はサンタ・マリア・ノヴェッラの柘榴の香りが登場した。
関連項目[]
脚注・参照[]
- ↑ 東京創元社: 『007/カジノ・ロワイヤル』(イアン・フレミング)[1]。原作宣伝のページだが、ネタバレにならないよう原作と映画『カジノ・ロワイヤル』の特徴を述べ、原作読者に対する見どころの簡潔な説明。ヴェスパーが登場するシーンは原作と映画とではまったく異なるが、ヴェスパー注文の台詞を忠実に再現した映画の意図を暗示している。
- ↑ これはクリス・コーネル本人の意向によるものとされる。なお、彼自身のアルバム“Carry On”、および2008年にリリースされたシリーズ主題歌集“Best of Bond...James Bond”には収録。
- ↑ 主題歌のなかった『007 ドクター・ノオ』『女王陛下の007』を除く。
外部リンク[]
|