『007 ロシアより愛をこめて』(ゼロゼロセブン[1] ロシアよりあいをこめて、From Russia with Love)はイアン・フレミングの長編小説第5作(後述のように日本語版のタイトルは『007 ロシアから愛をこめて』)。また1963年に製作された007シリーズ映画第2作。ユナイテッド・アーティスツ提供。1964年4月の日本初公開時の日本語タイトルは『007 危機一発』。1972年に『007 ロシアより愛をこめて』としてリバイバル公開された。
小説[]
イアン・フレミングの小説007シリーズ長編第5作。1957年、ジョナサン・ケープ社より出版された。日本では1964年に東京創元社から井上一夫訳により創元推理文庫で発売されているが、タイトルは映画版と異なり『007 ロシアから愛をこめて』である。
あらすじ[]
ソビエト連邦情報機関の最高幹部会議は、西側の情報機関に打撃を与えるため、スメルシュの手によってイギリス秘密情報部の情報部員ジェームズ・ボンドをはずかしめて殺すことに決定した。チェスのモスクワ選手権タイトル保持者でスメルシュ企画課長のクロンスティーンが立てた計画に基づき、第2課長ローザ・クレッブ大佐は、タチアナ・ロマノーヴァ伍長を囮に仕立てた。
ボンドに夢中になったソ連職員タチアナが、暗号解読器「スペクター[2]」を手土産に亡命を望んでいるという連絡が入り、ボンドはイスタンブルへ派遣された。首尾よくタチアナと解読器を確保したボンドは、夫婦を装いオリエント急行に乗り込んで国外脱出を図るが、そこにはスメルシュの放った刺客グラントが待っていた。
映画[]
あらすじ[]
犯罪組織「スペクター」は、クラブ諸島の領主ノオ博士の秘密基地を破壊し、アメリカ月ロケットの軌道妨害を阻止した英国海外情報局の諜報員007ことジェームズ・ボンド(ショーン・コネリー)への復讐、それもソビエト情報局の美人女性情報員と暗号解読機「レクター[2]」を餌にボンドを「辱めて殺す」事で両国に泥を塗り外交関係を悪化させ、更にその機に乗じて解読機を強奪するという、一石三鳥の計画を立案した。
実はスペクターの幹部であるソビエト情報局のクレッブ大佐(ロッテ・レーニャ)は、真相を知らない部下の情報員タチアナ・ロマノヴァ(ダニエラ・ビアンキ)を騙し、暗号解読機を持ってイギリスに亡命する様、また亡命時にはボンドが連行する事が条件だと言う様に命令する。英国海外情報局のトルコ支局長・ケリム(ペドロ・アルメンダリス)からタチアナの亡命要請を受けたボンドは、罠の匂いを感じつつも、トルコのイスタンブルに赴いた。しかし、そこにはスペクターの刺客・グラント(ロバート・ショウ)が待っていた……。
概要[]
前作の成功により、さらにアクションを取り入れた活劇大作。屈強な殺し屋との格闘、ヘリコプターによる追跡、ボートでの脱走と、見せ場が次から次に登場する。一方で、前作の後半で見られたSF色の強い展開は、リアリティを意識して抑えられている。ダニエラ・ビアンキは、知性の中に色気とチャーミングさを覗かせ、その後のボンド・ガールの方向性を確立した。ボンドのアクションにおける強敵としてのグラントのキャラクター、支給品の秘密兵器(ここでは決まった手順であけないと催涙ガスが噴き出す仕組みのアタッシェケース)がクライマックスで重要な伏線になること、何よりもオープニング・テーマの前に「プレ・アクション」が入るようになったことなど、後続作品に踏襲されることになるパターンの多くが、本作で形作られた。
原作は刊行当時(1956年)の趨勢を反映して、英国秘密情報部対ソ連特務機関スメルシュの図式となっているが、映画では政治問題を避けて前作に続き犯罪組織「スペクター」を主敵としている。しかし、映画作品内といえども当時のソ連にとって好ましくない描写もあったため、同国ではその後007シリーズは御法度とされていたという。
ロケ地であるイスタンブルの描写やオリエント急行車内(映画では特に明言されていない)での模様など、ストーリーの展開は概ね原作に近づけてある。
本作は1963年の世界興行収入で第1位となり[3]、日本においては1964年の外国映画興行成績で第6位(第3位に次回作の『ゴールドフィンガー』が入った)であった。
主題歌[]
ライオネル・バート(Lionel Bart、1930年 - 1999年)が作曲、バラード・シンガーのマット・モンロー(Matt Monro、1932年 - 1985年)が唄う同名タイトルの主題歌が大ヒットした。イギリスの「メロディ・メーカー」誌では、最高位20位を獲得、また、ジョン・バリー・オーケストラの演奏による同主題歌もチャートに登場し、最高位39位を記録している。アメリカではチャート入りは果たしていないが、サウンドトラック・アルバムは、アメリカの「ビルボード」誌アルバム・チャートで最高位27位を獲得している。
タイトル[]
1964年4月の公開当時の邦題の「危機一発」は、髪の毛一本の僅差で生じる危機的状況を意味する「危機一髪」と銃弾「一発」をかけた一種の洒落で、当時ユナイト映画の宣伝部にいた映画評論家の水野晴郎が考案したとされる。
その後、「危機一発」という語句は「ドラゴン危機一発」や「黒ひげ危機一発」、映画では「ルパン三世 バイバイ・リバティー・危機一発!」でも用いられた。
これによって、本来の表記も「危機一発」であるとの誤解が広まったともいわれる。
なお、「危機一発」については、1956年の東映映画『御存じ快傑黒頭巾危機一発』が既にあり、水野晴郎の独創ではなく、以前から使われていたという意見もある[4]。
原作小説の邦題『ロシアから愛をこめて』を「ロシアより」に変えたのは「ロシア経由で」と「ロシアへの愛(母国愛)以上に」の2つの意味を持たせるためだったという可能性がある(「ロシアから」だと後者の意味が欠ける)[5]。
キャラクター、キャストなど[]
- 本作は、ケリム・ベイを演じたペドロ・アルメンダリスにとって遺作となる。撮影当時、すでに末期癌に冒されており、彼の出演部分が撮影終了した直後にUCLA病院に入院したが、そこで拳銃自殺を図ってしまった。なお、息子の「二世」が「消されたライセンス」に出演している。
- レッド・グラントを鍛え上げたスペクター秘密訓練所の責任者・モゼニー役のウォルター・ゴテルは、後に『私を愛したスパイ』~『リビング・デイライツ』でソビエト情報局のゴーゴル将軍を演じた。
- 映画版では本作で初めてスペクターの No.1 ブロフェルドが登場するが、顔も見せなければ名前も明らかにしない。この人物を演じたのは、『ドクター・ノオ』で配下のデントを演じたアンソニー・ドーソン。声はエリック・ポールマンがアフレコをしている。
- 映画版ブロフェルドのペットはペルシャ猫で、本作以降も毎回膝の上に抱くシーンが登場。その他、本作では水槽に闘魚(Siamese fighting fish)を飼っていた。
- クロンスティーン(スペクターNo.5)役のヴラディク・シェイバルは、番外編『カジノ・ロワイヤル』にも、ル・シフルの部下として登場。ポーランド出身の俳優で、テレビシリーズ『謎の円盤UFO』のドクター・ジャクソン役などでも知られる。
- ブースロイド役が、前作のピーター・バートンからデスモンド・リュウェリンに替わる。本作では装備主任(Equipment Officer)と紹介され、ボンドに特殊装備のアタッシェケースを渡す。「Q」と呼ばれるようになるのは、次作の『ゴールドフィンガー』からで、シリーズでもお馴染みとなっているボンドとの掛け合いも次作以降。この後、第8作『死ぬのは奴らだ』を除き、第19作『ワールド・イズ・ノット・イナフ』までのシリーズ全作品に登場することになる。
- 前作『ドクター・ノオ』でボンドとカジノで知り合った、ユーニス・ゲイソン演ずるシルビア・トレンチが再び登場。レギュラー化の計画もあったというが、結局本作が最後の登場となった。
- 原作のエンディングでは、小説第1作『カジノ・ロワイヤル』でボンドに協力したフランス参謀本部2課のルネ・マティスが顔を見せるが、本作では出てこない。このキャラクターは、2006年の『カジノ・ロワイヤル』でモンテネグロの現地部員と設定変更されて、ようやく登場している。
秘密兵器など[]
- ブリーフ・ケース(英「スウェニー&アドニー」製。後に「スウェニー、アドニー&ブリックス」と社名変更)には、AR-7用銃弾20発、ナイフ、ソブリン金貨50枚(25枚ずつ2本のストラップに収納)が隠されており、赤外線照準器付きアーマライトAR-7が入っている(AR-7にはスコープは付属しないため、収納式ストックは専用に改造されている)。また、タルカム・パウダーの容器に詰めた催涙ガスをセットすると、ケースを普通に開けた際ガスが噴出する。これを避けるには、つまみを水平に回してから開く。Qブランチが開発したもので、ブースロイド少佐から説明を受けた後、Mの命令で携帯させられた(MI6諜報員の標準装備で劇中でボンドの応援にやってきた諜報員も持っていた。ただしこの諜報員はボンドになりすましたグラントに殺された)。
- 盗聴器探知機。電話に仕掛けられた盗聴器を探知。特に他のものに偽装はしていない。
- ローライフレックス・2眼レフカメラに偽装した小型オープンリール・テープレコーダー。
- レッド・グラントの腕時計。竜頭を引くとワイヤーが伸び、これを相手の首に巻きつけて絞め殺す。
- ナイフを仕込んだ靴。スペクターのローザ・クレッブが使用。
- 原作によると、ナイフに塗られていたのはフグ毒で有名なテトロドトキシン。原作ではこれを刺されたボンドが呼吸困難に陥り「一体どうなるのか!?」というところで終わってしまう。次作『ドクター・ノオ』で、その後人工呼吸によってボンドが一命を取り留めたことが明らかになるが、映画では製作順序が逆になったため、このエピソードは変更されている。
- 特殊装備搭載のボンドカーは、まだ登場しない。本作の序盤で、ボンドはベントレーマークIV・コンバーチブルに乗っている。自動車電話付きで、ポケットベルで呼び出しを受けたボンドは、この電話で本部と連絡を取る。どちらも、当時はまだ珍しいものであった。
- 原作のボンドは、初め1933年式ベントレー・コンバーチブルに乗っていたが、第3作『ムーンレイカー』で大破してしまい、1953年型の二台目に乗り換えた。
その他[]
- 『ルパン三世』のTVスペシャルでは既述した「危機一発」という表記がタイトルに使われたり(1989年放送の『ルパン三世 バイバイ・リバティー・危機一発!』)、本作と同じタイトルの作品(1992年放送の『ルパン三世 ロシアより愛をこめて』)も製作され、冒頭のシーンのオマージュがされるなど、本作はそれなりに馴染みのある作品になっている。
- 2005年に本作のゲーム版がPSP、PS2用ソフトとして発売されている。ジェームズ・ボンドの声をショーン・コネリーが担当している。
- 1961年、ライフ誌に載ったケネディ大統領の愛読書10冊の中に、本作の原作が入っていた。
- ボンドとシルビア・トレンチが河畔でピクニックをしているシーンは、イギリスのバークシャーにあるハーレーでロケされた。
- ボンドはパンアメリカン航空のボーイング707旅客機で、イスタンブルのイェシルキョイ空港に到着する。なお同機は世界一周便の「PA001」便という設定であった。
- ケリムはボンドを船に乗せ、地下貯水池をソ連領事館の真下まで案内する。
- ケリムがボンドを連れて行った村のシーンは、イスタンブルのアジア側郊外にあるペンディク(Pendik)でロケされた。
- ボンドはボスポラス海峡クルーズ船の上で、タチアナからレクターの情報を聞き出す。
- ボンドがタチアナの持ち出したソ連領事館の青写真を入手した場所は、聖ソフィア寺院。
- レクターを奪取したボンドは、タチアナを連れシルケジ駅からオリエント急行に乗車。ストーリー上では、列車はその後ユーゴスラビアのベオグラードとザグレブに停車。
- ブロフェルドがクレッブとクロンスティーンを責める場面で、ブロフェルドがはめていた指輪が、次のカットになると反対の指にはめられている。
- グラントと戦いこれを倒したボンドは、タチアナを連れユーゴスラビア国内の踏み切りで下車し、トラックで陸路を逃亡した後、ボートでアドリア海を航行してヴェネツィアへ至る。
- 原作では、グラントとの戦いはスイス・イタリア国境のシンプロントンネル内で行われ、その後ボンドたちは、フランスのディジョンで途中下車してパリへと到る。
- トラックがヘリコプターに追われるシーンや、ボートチェイスのシーンは、実際はスコットランドで撮影された。
- ボンドがヘリを撃墜し、隠れていた岩陰から出てくるシーンで、居るはずのない人影(スタッフ?)が映っている。
- ボンドとタチアナはヴェネツィアで運河をクルーズし、ため息橋の下を通過する。このシーンではコネリーとビアンキは現地ロケを行っておらず、スタジオでスクリーン・プロセス撮影をしている。
- ケリムを負傷させたソ連の狙撃者クリレンクの隠れ家は、巨大な映画広告の裏にある。この映画は、ブロッコリとサルツマンのイオン・プロが、本作と同じ1963年に制作した『腰抜けアフリカ博士』である。クリレンクは、看板いっぱいに描かれたヒロインであるアニタ・エクバーグの口の部分に作られた出口から脱出しようとしたところを、ケリムに狙撃され落命する。なお、原作では映画『ナイアガラ』の広告になっていて、マリリン・モンローの口から脱出する。
- オリエント急行の食堂車で、ボンドたちは舌平目のグリルを食べる。この料理にボンドはテタンジェ・コント・ド・シャンパーニュ・ブラン・ド・ブランを注文。一方グラントは、赤ワインのキャンティを注文し、ボンドの不審を招く。
- 映画での敵役はスペクターだが、原作ではスメルシュとなっている。また原作での黒幕はイワン・シーロフであり、彼は実在した人物である。
- リバイバル上映時のポスターは、トレードマークのワルサーPPKを持つボンドの適当な写真がなかったため、モデルガンを水野晴郎が持って写真に撮り、ショーン・コネリーの写真にPPKを持つ腕の部分だけ合成して作られた。
- イギリス版の予告編もアメリカ版の予告編も主要なキャストの名前はあがっているが、一人だけ例外がいる。ショーン・コネリーの名前である。
スタッフ[]
- 原作 - イアン・フレミング
- 監督 - テレンス・ヤング
- 製作 - ハリー・サルツマン、アルバート・R・ブロッコリ
- 脚本 - リチャード・メイボーム
- 撮影 - テッド・ムーア
- 編集 - ピーター・ハント
- 音楽 - ジョン・バリー
- 主題歌 - マット・モンロー
- 作曲 - ライオネル・バート
- 楽曲録音プロデューサー - ジョージ・マーティン
- 美術 - シド・ケイン
- 特殊効果 - ジョン・ステアズ
- 視覚効果 - ロイ・フィールド
- メインタイトル・デザイン - ロバート・ブラウンジョン
キャスト[]
- ジェームズ・ボンド - ショーン・コネリー
- タチアナ・ロマノヴァ - ダニエラ・ビアンキ
- ローザ・クレッブ(スペクターNo.3) - ロッテ・レーニャ
- レッド・グラント - ロバート・ショウ
- ケリム・ベイ - ペドロ・アルメンダリス(w:Pedro_Armendariz)
- ケリム・ベイの女 - ナジャ・ジレン
- モーゼニー - ウォルター・ゴテル(w:Walter Gotell)
- M - バーナード・リー
- Q - デスモンド・リュウェリン
- マニーペニー - ロイス・マクスウェル
- クロンスティーン(スペクターNo.5) - ヴラディク・シェイバル(w:Vladek Sheybal)
- シルビア・トレンチ - ユーニス・ゲイソン
- ゾラ - マルティーヌ・ベズウィック
日本語吹替[]
役名 | 俳優 | TBS版1 | TBS版2 | DVD新録版 |
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ボンド | ショーン・コネリー | 日高晤郎 | 若山弦蔵 | |
タチアナ | ダニエラ・ビアンキ | 鈴木弘子 | 林真里花 | |
グラント | ロバート・ショウ | 内海賢二 | 山野井仁 | |
ローザ | ロッテ・レーニャ | 林洋子 | 沼波輝枝 | 巴菁子 |
ベイ | ペドロ・アルメンダリス | 小松方正 | 大宮悌二 | 長島雄一 |
M | バーナード・リー | 大宮悌二 | 今西正男 | 藤本譲 |
マニーペニー | ロイス・マクスウェル | 北村昌子 | 花形恵子 | 泉裕子 |
ブロフェルド | アンソニー・ドーソン | 大平透 | 早川雄三 | 稲垣隆史 |
モーゼニー | ウォルター・ゴテル | 飯塚昭三 | 島香裕 | |
Q(ブースロイド少佐) | デスモンド・リュウェリン | 杉田俊也 | 緒方敏也 | 白熊寛嗣 |
クロスティーン | ウラデク・シーバル | 寺島幹夫 | 田原アルノ |
TBS版1 - TBS『月曜ロードショー』1975年4月7日 21:00-22:55 放送
TBS版2 - TBS『月曜ロードショー』1976年3月29日 21:02-22:55 放送
- その他 - 広瀬正志、西村知道、加川三起、日比野美佐子、若本規夫
- 日本語版制作
- 演出 - 佐藤敏夫
- 翻訳 - 飯島永昭
- 調整 - 前田仁信
- 効果 - 遠藤グループ
- 製作 - 東北新社・TBS
- 配給 - ムービーテレビジョン
- テレビ東京再放送担当スタッフ
- テレビ東京担当 - 深澤幹彦、渡邊一仁
- 製作協力 - 武市プロダクション、ムービーテレビジョン
DVD新録版 - 2006年11月22日発売 DVD アルティメット・コレクション
- 日本語版制作
- 翻訳 - 平田勝茂
注・参照[]
関連項目[]
外部リンク[]
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